記憶の中の海

黒島のとある海岸。
でも、それがどこにあるのかがどうしても説明できないのです。

その日私は、宿の人に教わった浜を目指して自転車を走らせていました。
貝殻を拾いに行くために。

でも途中で道を間違えたようで、迷い込んだのは工事現場のような場所。
軽トラに乗ったおじさんが「海ならあっちだよー」と教えてくれ、言われるがままに戻って進んでやっとたどり着いたのがこの海でした。

そこにあったのは貝殻ではなく、壊れた桟橋みたいなコンクリートと、その奥に広がる鮮やかな青。
物悲しく、美しい海でした。

二度と同じ場所にたどり着ける自信はありません。
名前はないけれど、心の中に焼き付いている風景。

大切な、記憶の中の海です。